東京高等裁判所 昭和30年(う)2176号 判決
被告人 高安功
〔抄 録〕
所論は、被告人が原判示地点において本件小型貨物自動車を転回運転した際、被告人は右地点が転回禁止の場所であることを知らず、またこれを知らないことについて過失もなかつたのであるから本件は無罪とされるべきものであるというのである。しかし本件記録を調査し並びに当審における事実の取調の結果を総合するときは、被告人が右自動車を転回運転する当時その個所が転回禁止区域内であることにつき少くとも未必的故意を有していたものと認められるのであるから原判決には所論のような違法はない。
即ち本件記録並びに当審における事実の取調の結果によれば判示渋谷区上通二丁目六十一番地先は渋谷駅に接続する東横百貨店東側の車馬の交通相当頻繁な個所であり、昭和二十九年七月一日同所附近百三十米の間を転回禁止区域と定められその両端及び中央部附近には道路左側の路端の見易い所に所定の転回禁止標識が設置されているのであり、被告人の転回運転をした場所は右区域の略中央東横百貨店の真向にあたるところであつて、中央部附近に設置された転回禁止標識(以下中央標識と称する)から直線距離約十五米の地点である。そして右標識が被告人の停車した位置からは電柱等の陰となり見難い関係にあつたとしても、その位置においても、顏を左又は右に僅かに動かすときは右標識を認めうる位置状況にあつたことは原審検証調書の記載からこれを推認しうるところであり、更に右地点に至る道路の曲り角、元協和銀行前の左側には「ここから」との補助板を附した転回禁止標識(以下始点標識と称する)が進入する車と対面する位置に設けられ、その場所附近には何らこれを望見する妨となるものは存しない。更に同所附近は夜間においても相当明るい個所であることが窺われるから、被告人の弁解するように自動車を転回運転しようとした際被告人自らよく注意して標識の有無を確め又同乗者にも聞いたとすれば両名が共に右中央標識に気附かなかつたと云うことは諒解し難いところであり、この点に関する被告人並びに原審証人幸田吉弘の供述はたやすく措信し難い。そして前示のように本件道路に入る曲り角に何人も見得る位置に前記始点標識が設置されていること、被告人が転回運転を始める前該個所は転回禁止区域ではないかと思つて自分も標識の有無を注意し、同乗者にも聞いて見たと弁解していること、その他、転回運転をした場所と中央標識との距離、本件現場附近の車馬の交通状況転回運転をした時刻等諸般の事情を総合して考察するときは、右自動車を転回運転した当時被告人には少くとも右個所が転回禁止区域内の地点であることにつき未必的な認識があつたものと認めるのが相当である。故に原判決が判示のように事実を認定の上被告人の所為を道路交通取締法違反として問疑したのは相当であつて論旨は理由がない。
(谷中 坂間 荒川)